だけど距離があんまりにも遠いんで、ルートヴィヒに聞こえているとは思えなかったんだ。
「ど、どうしよう……。まだエルザは人魚に戻らないのかしら」
「きっと完全に死んでいなかったんだ。お前達の話だと、泡になって死なないと駄目なんだろう?」
イヴァンの言葉にアリスは更に慌てた。泳いでいくわけにもいかない。声も届かない。
3人はすっかり途方に暮れたよ。
「ルートヴィヒさん、妙なことしないといいけど……」
そう願うばかりだった。
そのとき、すぐそこの海面から水飛沫がして人の頭が飛び出してきた。
ルートヴィヒかエルザだと思ったんだけど、違ったんだ。
「はぁ~い。魔女っ子ゾフィーよん、そこのお兄さん、いい男ね。私と一晩過ごさなぁ~い?」
「………どちらさま?」
海から勢いよく顔を出したのは奇妙としか言いようのない風貌の人魚だった。
ピンク色のくるくるした長い髪に、猫目気味の瞳、おまけに豊満なボディを持った女性だったよ。
「この海の魔女よん。ゾフィーって呼んでお嬢ちゃん」
「海の魔女!? これが!」
アリスは驚きのあまりそれしか言葉が出なかったよ。エルザから聞いていた海の魔女っていうのが、こんな奇抜すぎる見た目だったなんて。
魔女ゾフィーは相変わらず陽気に言った。
「あらん、こっちの黒髪のボクもいいわね~、お姉さんと楽しいことしない?」
「喜んで!」
「ばかっ、こんなピンク色の髪に連れて行かれたら呪い殺されるわよ!」
と、慌ててカールの背をはたくアリス。

![[短編] 昨日の僕は生きていた。](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.787/img/book/genre1.png)