はは、と乾いた笑い声。
「もしかして、ピンチ?」
カールの言葉に2人は頷くしかなかった。
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ルートヴィヒは自慢の尾びれで月光が注ぐ海中を必死で泳いでいた。
誘われるようにゆっくりと海底に沈むワンピース姿の女性を追いかけてさ。
「エルザー! エルザー!」
遠目からは白色に見えた水色のワンピース。ゆらゆらと揺れてエルザを包んでいた。
エルザは蒼白した表情で瞼を閉じて、唇からは酸素が止め処なく溢れて泡を作っている。もう意識をなくしていたんだ。
「待ってろ、エルザ! 僕が助けてあげるから!」
ルートヴィヒはエルザの腕掴むと水面に向かって勢いよく上昇する。
一心不乱に、エルザのことだけ考えていた。
「エルザ、エルザ!」
ざぱ、と海面に顔を出すと、目映い月明かりが一気に2人に注いだ。
それでもエルザの顔は白かった。
一方、2人が海面に顔を出したのを発見したアリス達。遠い遠い沖のほうだったけどアリスは叫んだ。
「ルートヴィヒさーん! エルザは人魚に戻るために死んだのよ! すぐ人魚に戻るわ!」
と、張り裂けんばかりの声で伝える。

![[短編] 昨日の僕は生きていた。](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.787/img/book/genre1.png)