< 5 >
「あら王子、よく1人で戻って来られたわね」
イヴァンがアリスとカールのもとへ戻ると、2人は並んで浜辺に腰を下ろしていた。
コートに砂が付くのが嫌だったんで、イヴァンはそのまま2人の背後に突っ立ったままだ。
「馬鹿にするな。あの女はどうした」
「エルザですか? 彼女なら海の中です。そろそろ人魚に戻ってる頃だと思いますけど」
「――何だと?」
イヴァンは2人からエルザが人魚に戻る方法を聞いた。人間の姿のまま死ねば海に戻れるっていう、あの方法さ。
そして今まさに、それを実行してるって事も聞いたんだ。
しかしそこで彼は気付いてしまってね。
「さっきルートヴィヒが女の名前を叫んで海に潜っていったぞ」
「――へ?」
「俺たちのいた岩影からも見えたんだ。女が海に沈んでいくのが」
ルートヴィヒは、エルザが人間の姿で死ねば人魚に戻れることを知らない。このまま人間として暮らしていくと思っているからね。
という事はだよ。
3人は何だか嫌な予感がした。夜の闇に呑みこまれそうな海を凝視する。
「ルートヴィヒさんは……エルザが本当に死ぬ気だと勘違いしてるのかも……」
アリスが最悪の事態を口に出した。

![[短編] 昨日の僕は生きていた。](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.787/img/book/genre1.png)