薔薇とアリスと2人の王子

 エルザがゆっくりと立ち上がったとき、薄暗い浜辺をこちらに歩いてくる人影が見えたんだ。

「兄さんを発見したよ」

 それはカールだった。
 相変わらず何を考えているか分からない飄々とした笑顔を浮かべている。

「遅いじゃない。で、王子は?」
「ルートヴィヒと話してるよ。男のなかに居ても退屈だから、僕だけ帰ってきたのさ」

 そう言いのけるカールを、エルザが軽く睨む。

「まさかルートヴィヒに、私が海に戻るってこと言ってないだろうな!」
「言ってないさ」

 やれやれとアリスはため息を吐いた。3人で入り江に立ち、海原を見渡す。
 月明かりに、地平線辺りがキラキラと輝いていた。

「それじゃあ、もういくよ」
「ええ、すぐに人魚に戻れるのよね?」
「たぶん……」

 そうポツリと言うと、エルザは歩を進めワンピースを纏ったまま海に入っていく。
 寒くないのか、アリスは心配だったよ。(元人魚だから、平気だったと思うけどね)

「いくら元人魚だからって、溺れるの辛くないのかしら……」
「辛いに決まってるさ。溺死と焼死は一番嫌だね」
「そうかしら?」

 アリスは眉をひそめてカールを見上げた。

「僕なら自殺だね。他人に殺されるなんて絶対にごめんだ」
「あ、そう。勝手にどうぞ」

 そんな事を言っているうちにエルザは胸まで海に浸かっていた。エルザの明るい金髪が月明かりに照らされてキラキラと光っていた。
 彼女はこちらを振り向かずに、そのまま海の中に落ちていく。