朝日に銀色に輝くまばゆい氷原。
 そこを雪ぞりが走る。
 引くのは六頭の獣。飼いならされてはいるが、獰猛で強靭な雪狼である。
 何の障害のない氷原を猛スピードで滑っていく。
 そのそりの上でレジィは不満を漏らしていた。

「寒いです~、サレンス様」

 何枚も下着を着込み、ありったけの衣類を重ね着してまるまるとした上に、さらにふわふわとした毛皮に頭から包まった少年はそれでも震えていた。

「自分で暖めればいいだろう」

 そりを操りながら、あっさりと答えたサレンスは町にいたときとたいして変わらない姿だ。長めの上着と細めのズボンをはいているきり。その上着もよく見れば、手の込んだ刺繍の入った仕立てのよいものだが、とても防寒用には見えない。
 彼は彼自身の<力>で自分を暖めていた。

「何言っているんですか。僕はまだ成人前なんですよ」

 子どもに力がないわけではない。むしろ逆。幼い子供の力は暴発しやすく危険だ。
 それゆえに<氷炎>の民は、成人するまでは力を封じられる。
 年よりも賢いレジィとて例外ではない。

「そうだったな。お前は口だけは達者だから、つい忘れてしまう」
「酷いです~」
「しかたがないなあ」

 手綱を片手に持ち直すと、サレンスは隣にすわる少年に手を伸ばした。

「ほら、これでいいだろう」

 触れられた手から暖かな温風がレジィをつつむ。
 少年はほっと一息ついた。

「はい、あたたかいです。ありがとうございます」
「しかし、それなら何だってついてきたんだ」

 サレンスのその弁にさすがのレジィも頬を膨らました。
 やわらかな青色の瞳が据わる。