「レジィ」
「はい、一の長様」

 サレンスの従者レジィに声を掛けたのは長老たちの中でももっとも年上の老人、一の長だった。

「<サレンス様>に目覚めの兆しはないだろうな?」

 そう尋ねられたとたん少年の表情が変わった。子供らしい無邪気さが影を潜め、思慮深い老成した大人の表情へと。
 慎重に言葉が紡がれる。

「ないですよ。彼の頭の中は今のところ女の子のことでいっぱいですし、<サレンス様>ご自身は起きる気はないようですし」

 少年はちょっと首をかしげた。

「起こしてみますか? ドラゴンのこと何かわかるかもしれませんよ」

 少年の発言に一の長は即座に首を振った。

「とんでもない。いま目覚められても問題が増えるだけじゃ」
 こくりとレジィはうなづく。
「そうですね、外に出るならなおさらですし。<彼>は強すぎるから」

「そなたには無理をさせる。父君が生きておられればな」
「しかたがないですよ。今は僕が<導き手>なんですから」
「実を言うとあまり手柄を立てて欲しくはないのだ。他の民に<力>を見せびらかすようなことになってもまずい」

 他の長老も話を継ぐ。

「かと言って何の役にも立てないようでは。我らが民が軽んじられる」
「怪我をしない程度に適当に活躍してくれればよいのだが……」
「しかし、煽ってしまったからなあ」

 全員でため息をついたときだった。
 扉の外から声がする。

「レジィ、レジィ」

 サレンスがじれったげに彼を呼んでいた。

「まったく、しょうがないなあ」

 少年の表情にいつもの子供らしい無邪気さがひらめく。
 気を取り直して一の長が最後の釘をさす。

「サレンスが暴走しないようしっかり見張ってくれ。まあ、少なくとも我が<氷炎の民>の恥さらしにならんようにな」

「心得ました」

 かくして女好きな『氷炎の民』とそのお目付け役は王都に旅立つのであった。