ふいに目覚めたサレンスはあたりを見回した。

「ここはどこだ?」

 見慣れぬ光景だった。
 大きな屋敷の中庭のようだった。白く塗られたレンガ造りの壁に周りを取り囲まれているのが、夜目にも鮮やかだ。硝子の嵌った窓枠もぼんやりと見えるが、灯りもついておらず人の気配はない。

 地面は大雨のあとのように水が溜まり、ぬかるんでいる。
 そこに倒れていたものだから体が泥水に汚れているが、酷く気分が悪いのはそれだけのせいではなさそうだった。

 体が鉛のように重い。頭が痛い。

(たしか村の火事を消して……)

 それから。
 記憶がなかった。

(またか)

 小さくため息をついて身を起こす。
 こんなことははじめてではない。
 記憶が飛んで、その後はいつもとんでもないことになっている。

(久しくなかったのにな)

 軽く手を振る。
 それだけで彼の体と衣服が含んでいた水分は蒸発してしまう。
 乾燥した泥を手で叩き落とす。
 手のひらに小さな炎をともす。
 銀の光が目に入る。
 自分の髪先だった。

(いつのまに?)

 確か黒にレジィに染められて、そのままにしていたはずだ。今は元のきれいな銀髪にもどっている。