長老会のお歴々を前にしても、サレンスはまったく動じなかった。

「ドラゴン退治? めんどくさいな」

 王都よりの書状を聞かされての第一声がそれである。
 側に控える従者の少年レジィが驚いたようにびくりと肩を震わせるが、かまいもしない。

「大体、王国にそんな義務も義理もないでしょう。無視すればいい」

「そんなわけにも行くまい。我らの立場はいまだ微妙なものだ。王命を無視して妙に勘ぐられるのも楽しくない」

 極寒の地で暮らす<氷炎の民>は他の王国民より見れば、いまや神秘的な謎めいた存在でもあり、畏怖の対象でもあった。しかし、いつその感情が反転するか長老たちは決して楽観視はしてはいなかった。彼らはその昔、迫害を経験した世代でもあったのだ。
 しかし、この地で生まれ育ったサレンスには、長老の言葉は説得力がない。

「そんなこと私には関係ない」

 取りつくしまもない返事。
 しかし、長老たちはサレンスなぞより役者が一枚も二枚も上であり、彼の性癖をよく心得てもいた。搦め手を展開する。

「そうなのか、サレンス? 王国にはそれこそ美人がたくさんおるというのに」
「しかも、ドラゴン退治の英雄となればもて放題」
「よりどりみどりじゃ」

「え? ほんと?」
 これにはサレンスは如実に心動かされざるはえない。

「真じゃ」
「ドラゴンを倒せばもてもてのうはうはだ」
「間違いない」

「よーし、行くぞ」

 一人片手を天に突き上げて気炎をはくサレンス。

「そうと決まればレジィ、急ぐぞ」

 その場からあっという間に姿を消す。あわてて後を追おうとする従者の少年を長老の一人が呼び止めた。