<狩猟の民>の村はずれの丘に氷の壁に隠された洞窟があった。
<サレンス>がそれをいともあっさりと暴く。
 分厚い氷壁が彼の放った灼熱の炎でやすやすと砕かれる。
 もうもうと雪煙が上がり、ぽっかりと口を開いた暗い穴が姿を現した。

「こっちだ」

 氷炎の神<サレンス>に先導され、レジィと雪狼のセツキが後に続く。
 外界から遮断されていた中は意外に温かい。
 彼が右手を差し上げると、青い炎がともった。
 炎はふわりと鬼火のように宙に浮き、深い闇に閉ざされた洞窟の中を優しく照らし出した。

 ほの暗い洞窟の中は自然の驚異に満ちていた。

 長い年月を重ねて水が岩を穿って創り上げた芸術品がそこかしこにみられる。
 天井から下がった鍾乳石。地面から盛り上がった無数の石筍。ついには天井まで伸びてまるで宮殿の柱のように育った柱石。

 精緻なレース模様が掘り込まれたかのような石壁からは、<サレンス>の創りだした青い炎の輝きに硬質な煌きが返ってくる。石に埋もれた貴石が、永の年月のうちに清水に洗い出され姿を覗かせている。

 レジィは目を丸くしてそれらを観察していたが、前を行く<サレンス>は目もくれない。しかし、足元の悪さも手伝って足を止めがちになるレジィに配慮しているのか、少年が置いていかれることはなかった。

 岩を伝い、滑りやすい粘土質の地面に転がった砂利に足を取られながらも先に進む。いくつにも枝分かれする道のうち、下へ下へと向かう道をかの人は迷うことなく選び取っているようだった。

 ようやく洞窟を行く事に慣れた頃、レジィは先を行く<サレンス>の背中に声をかけた。

「<サレンス様>ひとつ伺ってもいいですか」