「なんでまたこんな伸ばしているんですか?」

 綺麗に梳かしつけた長い銀色の髪を前にレジィはあらためて尋ねる。右手には刷毛、左手には溶かした髪粉が入った容器を持っている。
 外は小雪交じりのかなりの強風が吹きすさんでいるが、サレンスが雪ぞりの周りに建てた氷壁のおかげで影響はない。

「綺麗じゃないか」
「それは否定しませんが、面倒じゃないですか。髪粉もたくさんいるし。なんならばっさりと」

 あわててサレンスが口を挟む。

「私はちっとも気にならないぞ」
「そりゃそうでしょうよ。手入れは全部僕がしているんですからね」

 そう文句を言いながらもレジィの手つきはあくまで丁寧だ。
 みるみる銀の髪が黒に染まっていく。
 しかし、つややかに染まった黒髪の毛先を手にしたサレンスは顔をしかめた。

「気に入らないんですか? でも黒髪のサレンス様もけっこうイケてますよ」
「あたりまえだ。それよりお前はいいのか?」

 振り返るサレンスに、レジィはあわててかぶりを振る。

「いいです。僕は帽子にしっかり入れますから」
「ふうん」
「駄目ですよ。サレンス様が染めたら斑になること間違いないでしょうが。大雑把なんだから」
「試してみなければわからないだろうが」
「いやです」

 きっぱりと拒否するレジィにサレンスの蒼い双眸に懐かしげな光が浮かぶ。

「ああ、そうか、そうだな、お前の父上は薄毛だったなあ。気にしているのか。髪の毛はけっこう遺伝するからなあ」
「不吉なこと言わないでください」