輝く氷原を渡るには、5日ほどの日にちを要した。
 永久凍土に閉ざされていた地面にもちらほら黒いものが混じる。
 南にぼんやりと見えていた山脈もようやく大きく見え出していた。

「そろそろ準備しないといけないですね」
「何をだ?」
「またそんなのん気な。もうすぐ村があります。髪だけでも何とかしないと、<氷炎の民>だって一目瞭然です」
「別に一目瞭然でもいいのではないか」
「よくないです。わかっているでしょう」
「まあうちと上手くいってないからなあ」

 南の山脈の近くの村には<狩猟の民>が住んでいる。
 彼らは言葉通り狩猟の民だ。広い氷原や南にそびえる山脈まで狩に出掛ける。
 自分の町に引きこもりがちな<氷炎の民>ではあるが、氷原に狩に出れば行き会うこともある。その時はどうしても角をつき合わせることになる。一種、縄張り争いのようなものだ。まして<氷炎の民>はその特殊能力ゆえ畏れられてもいる。畏れは敵意に繋がる。このまま村に入ってもいい顔はされないだろう。

「村に寄らなきゃいいだろう。それこそ無駄な衝突は避けたほうが無難だ」
「何、言ってるんですか。これからあの山脈に登るんですよ。いい案内人をみつけないと話にならないです」

 サレンスが炎を自在に操り体温をも調整できる<氷炎の民>とはいえ、山では素人だ。山越えして狩った獣の毛皮や肉を王都まで売りにいくことを日常としている<狩猟の民>の力なくては山を越えられない。
 そう、レジィは判断した。

「それにそこならドラゴンの情報だって手に入るかもしれないでしょう」
「それもそうだな」

 やっとサレンスが同意した。