王国のはるか北。
 人の住まえる北限を超えて彼ら一族の地はあった。

 銀の髪と蒼き瞳。
 氷の神の化身のような姿を持ちながらも炎を操るという特有の力ゆえに、彼らはこう呼ばれる。
「氷炎の民」と。

 居留地の中心に建つホールの一角で一族の長老たちが顔を付き合わせていた。その輪の中心には王国ファンタジアからもたらされた書状があった。

「ドラゴン退治か?」
「だが、我らが簡単に出向くわけにも行くまい」
「であろうな、我らが出向けば王国を灼熱の地に変えてしまいかねない」

 氷炎の民の力は単に炎を操るだけではとどまらない。彼らの力は気候すらも影響を与えてしまう。
 通常の氷炎の民はそこにいるだけで気温を上げてしまうのだ。団体であればなおさらだ。 

 この本来ならば、とても人が住めるはずもない極寒の地を、穏やかな気候に保っているのは彼ら一族の力の総和でもあった。 
 しかし、またそんな彼らの力は多くの邪推と畏怖をも生んだ。
 この地に落ち着くまでには心ない迫害にもあってきた。

「かと言って無碍にはできぬな」
「ドラゴンの来襲は我らが仕業かと勘ぐられかねない」

 長老の一人が深々とため息をついた。

「あの方に頼むしかあるまいか」
「確かにあの方ならば制御は完璧だ。しかし、……」
「王国に別の心配を持ち込む気もする……」

 今度は全員でため息をついた。