邪魔にならないように、端の方に本の山を置く。すると吉岡はそれに手をのばし、まだ空いている棚の中に整理しはじめた。なんだ、そんなの適当に置いておけばよいのに。

「その本、棚にいれなくていいと思いますよ」
「いや、一応」
「適当に置いておけばいいらしいですよ」
「…一応」
「って、坂口先生が言っていました」
「そう」


几帳面な性格なのか、本はきっちり棚にしまわないと気が済まないらしい。しかし背表紙の大きさがガタガタだ。そこは気にはならないのだろうか。そこまでするなら統一すればいいのに。そんなことを考えながらも、吉岡の手伝いをする僕は結構なお人よしだと思った。
「手伝わなくていい」

吉岡が僕の持っていた教科書をひったくり、言った。

「手伝ってもらうほど大変じゃない」

「それにもう暗くなるし」

「第一手伝ってくれなんて頼んでない」

「ねえ」

「ちょっと」

「私の話聞いてる?」

「宮野君」


吉岡が眉間にしわをよせ、僕に次々言葉を投げかける。全く話したことがなかったので、目の前で動いたり話している吉岡の姿が新鮮だった。そしてなにより、僕の名前を覚えていることに驚いた。


「宮野君、」
「ああ、ごめん、聞いてなかった。吉岡さん。で、なんでしたっけ」
「手伝わなくていい。何回も言わせないで」


聞いていなかったふりをしたらもっと吉岡と話せるのだろうか、なんて不覚にも思ってしまった。