「そんなことよりちょっとお願いが。ああ、そのゴミ捨ててからでいいけど」


少しむっとした。「そのゴミを捨ててからでいいけど。」僕にとって坂口はついで、なのに、坂口にとっては僕がついで、なのだ。
僕のゴミ捨ての邪魔をしたのはお前だろう、と思ったが口にはださない。正直面倒くさくなったので、なんですか、とだけ返事をした。

「職員室の僕の机の上の本、三階の教室に持っていっておいてほしいんだけどね。」
「あの物置みたいな教室?」
「そうそう。あそこに適当でいいからさ。」
「わかりました、」

なにげなく見た空が赤みがかかってきた。できればはやく終わらせて帰宅したい。短く返事をし、さっさとゴミを始末した。
坂口がなにか言っていたが、聞こえないふりをしてこの場を去った。きっと重要なことでもなかったと思う。無視をしてもかまわないと思った。
「あの時、見つけたのが僕でよかったよ」坂口は僕によく言う。
きっと理由とか、そういうのはないんだと思う。
でも、それを言われるたびに僕の心臓はキュッとなる。喉が詰まるような、息が止まりそうな、脳がぐちゃぐちゃになるような感覚が襲いかかる。

嫌だった。
「自分が悪いことをした」というのを改めて言われているようで嫌だった。

だから僕は坂口が嫌だ。

喉から嫌なものが出そうになる。
吐きそうになるのをぐっと飲み込み、職員室を目指した。