セシエルは、ミスリルのボルト(クロスボウの矢)が入った矢筒(やづつ)に目を向ける。

 あいつは凄いよ……ちゃんと色々、先の事も考えてんだから。

 そういやベリルは、使わなくなったマジックアイテムを集落に残していったな。

 使い方とか細かく紙に書いて。

「俺にもいくつか、くれたけど」

 こんなの使えねーよ。今まで使った事無いのにさ……

 セシエルは、指にはめられた赤い宝石のはまっている指輪を見つめる。

 そして、妻と子の顔を思い浮かべた。

 ドラゴンの脅威はすぐそばまでせまっている。他人事ではいられないのだ。

 だから、長老から討伐の同行者として選ばれた事も、嫌な気はなかった。

 突然集落に現れて殺されるよりは、戦った方が何倍もいい。

「いや、違うな」

 ベリルのいない集落にドラゴンが現れる事を……俺は恐れているんだ。

 あいつ1人で何が出来る訳でもないのに、あいつのいない場所よりあいつと共に戦っている方が安心感がある。

 ベリルにはそういう雰囲気があった。