「いえ、赤子の頃からあまり泣くことはなかったと聞いています」

「あ、そう」

 生まれ持った性格なのかね。しかし、

「その喋り方は違うだろ」

「言語学者の教育なので、よくは解りません」

 そいつは、こいつをどういう人間にしたかったのか。

 目上の人間に対する言葉遣いはまあ合格だとしても、同年代との会話には多少の不安が残る。

 そんな面倒なことは俺が考えることじゃないとカイルは思考を切り替えた。

 ドイツとの国境付近に近づくと、そこには在独米軍が数人ほど立っていた。

 そのなかに知った顔を見つけてカイルは口の端を吊り上げる。

「バート! 元気にしてたか!」

 車を出て細身の男に手を上げる。

「ようカイル」

 男も同じく笑顔で軽く手を上げて応えた。

 三十代後半の、鈍いブロンドはあちこちにクセが見える。薄黄色の目が印象的だ。

 ベリルはその様子を車から見やり、ゆっくりとドアを開く。

 少年を見たバートはカイルと何やら話しているようだ。