色々と聞いてはっきりしていることは、こいつは本当に何も憎んではいない。

 もちろん、襲撃した奴らにはそれなりの怒りや憎しみはあるだろう。

 そいつらを捜し出す術(すべ)すら見つからない現状に苛立ちもあるかもしれない。

 どうにも出来ない今は、考えないようにしているとは言っていた。

 こいつは、自分の生まれも、外に出られなかったことも、そういうものだと割り切って生きてきたんだ。

 自由を手にした今も、国の人間に見つかって迎えが来れば、素直に従う気でいる。

「そんな奴を、放っとける訳ねえだろ」

 小さな背中につぶやいた。