そこにいた多くの命のことを思えば、強い憤りを禁じ得ない。

 彼らすら、命を落とした理由がなかったことになる。

 ただ名前の刻まれた墓石が立つだけの、そんなそっけないものになる。

 だが、いまここにある命に値するものじゃない。

 こいつは全てを覚えていると言った。

 彼らには、それで充分なのかもしれない。

「とりあえず」

「はい」

「そういうのはもう誰にも話すなよ」

 馬鹿だと思われる。

「はあ」

 そもそも話す訳がないと顔をしかめる。

 突飛な話だということはよく解っているし、己の身を危険に晒すような行為をするとでも思っているのだろうか。

 やはり、全てを信じてもらえそうにはないと溜息を吐く。

 とはいえ、カイルに話したことでベリルの心は多少の軽さを得たようだ。

 話しきって手の震えは治まった。