──どれくらい走っただろうか。

 少年の着ている服と背負っているバックパックから、かなりの時間を移動していたに違いない。

 ふと少年は立ち止まり、少し荒くなった息を整えながら木々の間から空を仰いだ。

 陽は傾き、しばらくすればあかね色の光が世界を染めるだろう。

 これからやってくる暗闇を想像もしていないのか、少年の顔には自然と笑みがこぼれていた。

 持っていた食料も底を突き、数日が経っている。

 けれども、少年の目は不思議と喜びに輝いていた。

 ケヤキの葉は季節ごとに葉を落とし、落ちた葉が土を育て森を豊かにする。

 目を閉じて、森特有の薫りを肺一杯に吸い込み深く吐き出した。

 見えるもの、感じるもの全てを記憶に焼き付けるように、少年は森の中をじっくりと見回した。