──少年は助手席の窓を開けて、通り過ぎる風景と風を肌で感じていた。

「楽しいか?」

「はい。とても」

 違和感のある物言いにカイルは眉を寄せる。

 目の前の光景や物を知っているのに知らないような、子どもが図鑑で見たものを初めて目の当たりにした時の瞳に似ていた。

 まるで、生まれてからずっと病院から出た事がない人間のような、そんな感覚を受ける。

 しかし、見たところ少年は病弱という訳でもなさそうだ。

 あまり抑揚の無い声色に、本当に楽しいのか疑問に感じつつひょいと覗き込む。

 少年の表情は薄く未だ読めない部分が多いものの、口元には若干の笑みが浮かんでいた。

 楽しいのは間違いないようだ。そのとき、

「うん?」

 カイルは何かに気付いてパンツのバックポケットを探る。

 着信を知らせる振動を携帯端末が伝えていた。