たゆたう波の終わり

 ハイジャックで死人が出たのは犯人の一人だけだ。

 乗客に重傷者はいたものの、命に別状はなく最も酷い怪我をしたのは犯人たちと闘ったカイルである。

 乗客にとってはまさに救世主だ。

 カイルにとって、乗客が無事であったことが一番の喜びだ。

 何を置いても相手を思い遣る。

 それが彼の良いところでもあり、尊敬するところでもあるのだが少々、向こう見ずな性格に頭を抱える。

 犯人も殺さずに対処出来ていたらと考えはしても、あの状況ではあれが精一杯だったと理解している。

 ただし、この状態は良しとはいえない。

 後遺症が残るほどの傷を負ったことに、ベリルは怒りを禁じ得ない。

 日頃、あれだけ私には「慎重に、なるべく怪我はするな」と言っておいて、このざまとは笑い話にもならない。