「あ、ごめん。気にしないで」
隣の席の望(のぞむ)に声をかけられ、慌てて笑みを浮かべた。
「いや。珍しいな、と…」
「そう?それよりいんちょーは…あ、また間違えた。会長はテストどうだった?」
「いいよ。言いにくかったらそのままで」
間違いを訂正すれば、そう言って苦笑した。
望は先月の選挙で生徒会長に当選していた。
アイドル系の容姿を生かし、投票数の殆どを手にしていたやり手だ。
しかし入学時からずっとHR委員長を務めていたため、クラスでのあだ名が“いんちょー”でインプットされている。
「んー。慣れないんだよね…」
「本名って選択肢は無いわけ?」
「そんなことしたら、ファンの子に殺される…」
「大丈夫。そんなことさせないから」
驚いて顔を見ると、優しい笑顔があった。
康太や海示で多少免疫があるつもりだったが、至近距離でこんな笑顔を見せられれば心臓が持たない。
「気持ちわかるかも…」
アイドル系の顔立ちに加え、こんな殺し文句を冗談で言えるのだ。モテるのも頷ける。
