─帰宅して早々、母さんは経営してるジュエリー店に出掛けていった。


「いってらっしゃいませ。」


騎馬の声を聞きながら、俺は二階へと続く階段を黙って上った。
最後に聞いた恭平の言葉を、頭の中に浮かべながら…


「…陸、おい陸!!」


『えっ? はい!』


「…大丈夫か?お前」


声がした方に向くと、呆れ顔の恭平と目が合った。
状況が飲み込めずにいると、苦笑しながら目で葵を示した。


『ん?』


その視線をたどり、葵に目を向けると、怒りながら一方的に言葉を吐き捨て、そのまま部屋に入って行ってしまった。
バタン!と大きな音を立てて閉まる扉の音を聞きながら、何も無かったかのように自分の部屋へと向かう俺に、恭平も黙って後を付いてきた。


「高城ちゃん、ずっとお前に話しかけてたんだぞ?」


『そうなの? 全然気づかなかった…』


だから怒ってたのか。
なんて今更理由が分かっても、今はどうすることもできない。
「もうすぐサヨナラなのに、陸のバカ!」
葵の怒鳴り声が今更になって頭に響く。


「俺のせいだな、ゴメン」


ばつの悪そうな顔をする恭平に、笑顔を向け大丈夫だと声を掛けた。