─その話を聞いてて分かった事は、紅平は恭平のお兄ちゃんだということ。多分、アリスの恋の相手は兄の紅平の方なんだろう。


『…ん?』


じゃあ、なんで恭平は本当の事を言わないんだろう?
自分が恭平だって言えば済んだ筈なのに。…深く考える前に、現実に呼び戻された。


「陸?」


『んぁ?なに?』


「そろそろ帰るって」


言われて気づくと、いつの間にか母さんが戻ってた。
どうやら、恭平の事はまだバレてないらしい。
笑顔でサヨナラを告げる母さん達を見てると、アリスが立ち上がった。
 俺はコーヒーを飲むふりをしながら、アリスの行動を目で追った。
アリスが自分の母親に恭平の事を打ち明けるんじゃないか?そう思ったら生きた心地がしなかった。


「─では、またお店に伺いますね。」


「お待ち申し上げております。
アリスさんも、また」


笑顔で交わされる会話を聞きながら、三月親子が部屋を出て行くのを黙って見送った。
扉が閉まる寸前、アリスが振り返り俺達に…正確には恭平に手を振った。
軽く手を挙げた恭平は、扉が完全に閉まるとタメ息を1つ漏らし、ボタンをしめた。