目の前の葵が霞始め、俺は何も言わず葵の隣に座ると、そのままキツく抱きしめた。


「陸?」


鼻声の葵に名前を呼ばれる度、胸の奥がズキズキ痛んだ。


『ごめんな…傷つけてばっかで。』


黙って首を振る葵の腕が、俺の背中に回された。


『ごめんな?泣かせてばっかで…好きだから。
ずっとずっと葵が好きだから。』


文章になってない言葉を吐き、体を離すと小さく笑っていつもより長いキスをした。
その日交わしたキスは、しょっぱいのに甘かった。


──その後、観覧車を降りた俺達の顔が泣き顔だったのに気づいた係員だけが不思議そうな顔で俺達を見てた。
笑ってんのに泣いてたら誰だって不思議に思うよな。


「あの係員さん気づいたかな?」


『気づいてたな』


笑顔で交わされる言葉と距離は、来たときよりも近づいてる気がした。


『今度はお化け屋敷がある遊園地に行くか。』


「ジェットコースター4回連続で乗ってくれたら、一緒に入ってあげでもっていいですよ?」


『…やっぱ水族館にしよう』


「あははっ!!」


葵の笑い声を聞きながら遊園地を出たのは何十分前だろう?
帰りのバスの中、俺の肩に寄りかかって眠る葵の顔は幸せそうだった。
人がいない車内は、貸切状態だった。
バスに乗った時「おたくらで今日の仕事は最後だ」なんて運転手に言われた。
初めは遊園地の感想を楽しげに話してた葵も、気づけばいつの間にかおとなしくなってた。
繋がれた手を見て、子供みたいに笑う葵の顔を思い出したら、心が暖かくなった。
1人窓の外に目を向け、ポケットからiPodを取り出すと、起こさないよう片手でイヤホンを耳にはめた。


『…ぁ、雪』


頬杖を付き、窓から見えるライトを眺めてたら、窓ガラスに小さな結晶がついては溶けを繰り返した。


『こっちは遅めのChristmasか…』


イヤホンから流れたのは季節外れのX'masソングだった。
心地よい鈴の音を聞きながら、右肩に寄りかかって眠る葵に頭を重ね目を閉じた。