『はあ…』


シャワーの音でため息をかき消し、騎馬の言葉と葵の怒った顔を浮かべ、歯ブラシを口に突っ込んだ。


『ハァ…これじゃ前とかわんねえじゃん…』


窓から差し込む白い光を浴びながら、うなだれる髪に掛かるシャワーが顎を伝い落ちてくのを静かに見つめた。
だいたいどっから見合い話なんて湧き出てきたんだよ!? 親父が見合い話しを持ち出す筈が無いのは、昨日の電話を思うとなんとなく無い気がした。 兄貴も論外。
二人の執事にそんな力があるとは思えない。
反対してたし。
母さんとも最近顔を会わせてないから、多分違う。


『…ダメだ、余計にわかんなくなってきた』


その後も混乱する頭で必死に考えてみたけど、考えるだけ無駄だと気づくのにそう時間は掛からなかった。
キュッ─ 風呂を出てパンツと制服のズボンだけ着ると、シャツを羽織る前に髪を乾かした。


『はぁ…』


何度目のかのため息を吐き、鏡に目を向けると、隅の方に人影が映った。
慌てて振り向くと、何か言いたそうに、上目でチラチラ俺を見てる葵がいた。


『…どうした?』


ドライヤーのスイッチを切り、葵に問いかけた。
いつからいたのか聞くのも忘れるくらい、驚いた。


「いえ…」