俺の返事を最後まで聞くことなく、目の前の扉が閉まった。
待ってる間、葵の言った事を思い返してた。


-ご機嫌取りだったら、止めようと思ってたのに-


『ご機嫌取り…』


もしかして、俺と話さないのも目を合わせなかったのも、急に他人行儀になったのも…怒ってた?


「お待たせ致しました。」


数分後に出てきた葵は、上にコートを羽織ってた。


『あ、俺もコート取ってくる。』


平然を装い、スキップしそうな足を前へと進め、部屋の扉を開けると騎馬と目が合った。


『まだいたの?』


「陸が廊下にいたので、出るに出れない状況でして。」


『あ…ごめん。』


騎馬は俺を見て、ため息をつくと、顔が笑ってると言ってクローゼットからコートとマフラーを持ってきた。


『ありがとう。』


「なにかあったらすぐ僕に連絡してください。
よろしいですね?!」


『うん。』


窓から差し込む光が夕日に変わる前に、騎馬の言葉を制止し部屋を出た。


『行ってきます。』


「お気をつけて、いってらっしゃいませ。」


ドアが閉まる前に見えた騎馬の顔には、不安とハッキリ書かれていた。
心配してくれるのはありがたいけど、もうそんな歳でもないから…。
心の中で騎馬に謝り、廊下で待ってた葵と共に家を出た──。