『葵に聞いたのか?』


「ううん、和臣が言ってた。」


『そう…(葵が言ったのか。)』


「ただ会うだけなんでしょ?」


『うん…(どこまで話したんだろ?)』


「だったら、いいじゃない。相手のお嬢様だって無理矢理かもしれないし」


『うん、そうだな。』


俺は名波話を半分上の空で聞いてた。
朝からずっと付きまとうお見合い話に、いい加減うんざりして現実から逃げるように別の事で頭をいっぱいにした。


「─頑張ってね!」


『うん』


何に対しての頑張ってなのかも分からないまま、話は終わり、名波は満足げに食堂を出ていった。


『疲れた…』


「こちらにいらしたんですか。」


もうなにもしゃべる気になれなくて、声のする方に無言で顔を向けた。


「恭平さんに尋ねたら、教室をでたと言われたので、こちらかと思いまして。」


優しい笑みを浮かべ、そう説明する騎馬に小さく頷き、冷めたコーヒーを口に含んだ。


「重く考えなくていいと思いますよ。」


それだけ言うと、見合い話を避け今まで何処にいたのかを勝手に話し出した。