騒がしい子供の声に耳を傾け、ただボーっとベンチに座って、騎馬が呼びに来るのを待ってた。


「陸…」


名前を呼ばれ振り向くと、そこにいたのは騎馬じゃなくて、葵だった。


『…何?』


顔を背けその場から離れるでもなく、それ以上話しをする訳でもなく、ただ葵の言葉を待った。
神様がくれたチャンスに、淡い期待を抱きながら。


「帰るそうです。」


『…そう』


それだけか…それだけなら、騎馬で良かったじゃん。
ため息をつき立ち上がると、気まずい空気を破るように歩き始めた。


「陸、そのまま聞いて?」


『……。』


違和感なく話す葵の言葉が、敬語じゃないと気づくのにそう時間は掛からなかった。


「お父さんの転勤話し、今朝帰った時には、もう話は纏まってて。
…今日まで執事として陸の側にいれたこと、幸せに思ってます。
今日まで、お世話になりました。
それから、私はずっと陸の側にいるから。」


『わがままな主でごめんな。 俺、見送りには行かないから』


「うん」


頭が真っ白だった。
なんで“見送りに行かない”なんて言ったんだろ?