やっと口を聞いてくれた時、葵の頬には涙の跡があった。


「陸、私も言わなければならない事があるんです。」


『なに?』


「父がしばらく海外勤務になるらしくて…明後日、日本を発つ事に…─」


『嘘だろ…』


葵の言葉を遮った。
何でそんな冷静に話せんだよ…何でもっと早く、そうだよ


『何でもっと早くに言ってくれないんだよ…
いつもそうだ。
俺に相談なしで勝手に決めて、執事通して聞く俺の気持ち分かるか?』


「最後まで聞いてください!!」


必死に何かを伝えようとする姿さえ、今の俺には嘘に見える。


『何も聞きたくない 何処にでも行けよ。
俺は平気だから…』


目を合わせることなく、葵をその場に残し立ち去った。
バカだ。一人で舞い上がって、やっと両想いになれたと思ったのに。
俺、神様に嫌われてんのかな?


『あぁー…くだらなすぎて、泣けてくる…フッ』


俺の好き、ちゃんとアイツに伝わってたのかな?
ハァ…やっぱ、最後まで話し聞いてやれば良かった。


『ハァ…』


今からでも間に合うかな? …いや、無理だ。
今の俺は顔合わせたら、きっと傷つける。


「陸お一人ですか?」


その声に顔を上げると、いつの間にか駐車場に戻って来てた。
騎馬の問いかけに、何も言わずに頷いた。
今すぐ帰りたい衝動を抑え、騎馬に話しかけた。


『騎馬…』


「はい?」


『恭平達戻って来たら知らせて? 俺、あっちにいるから。』


「こちらで待たれないんですか?」


『うん。葵と顔合わせづらいし…』


「そうですか。
かしこまりました。」


騎馬はそれ以上何も言わなかった。
いつもの事。
いつもの事なんだけど、少し悲しかった。いっその事、笑い話にしてくれれば良いのに。
また怒らせたんですか!?って…
ポケットに両手を突っ込み、そんな事を思い歩いた。