君の虚実に恋してる

駐輪場から顎に手をあてていかにも「考えてます」というポーズでひろゆちが出てきた。


「どういうこと?」


すかさず詰め寄る。


「結構前だけどさ。俺、かっつさんとその取り巻きの会話聞いちまったことあって…」


取り巻き…。
本当だったんだ。
前まで信じられなかったけど、納得してしまう今が怖い。


「ちょっと真似するから聞いてて」


「え?」





それからひろゆちによる小劇場が開かれた。

登場人物はかっつ先輩、りな(取り巻きの女の子)、さやか(当時のかっつ先輩の遊び相手)。




「てかいきなり複雑だし」


「いや、俺も会話の一部聞いただけだから関係性については予想入ってるけど」




横やりを入れているときりがないので大人しく聞いてあげよう。




「これ聞いてたのライブ後の打ち上げの時な!設定大事。りなは二十歳前後」


そんな年上までモテるんだ…!
彼女いないんだと思ってたけど作らないだけか…。


「んで、りな『ねえ、晋ちゃん。さやかが本命なの?』。そこでかっつさん『いや?本命なんていないけど』。りな『嘘!だってさやかキスして貰ったって言ったもん。晋ちゃんいつもキスだけしてくれないじゃん』。かっつ『そうだったかなあ』。りな『そうじゃない。わたし達誰が一番始めにキスしてもらえるのか競ってるから』。かっつ『やれやれ』…てな感じで」



声を高い女とかっつ先輩の独特の言い回しを真似るのは上手かった。


「どういうこと?」


「ま、要するにかっつ先輩はキスしないんだよ」


「?」


「だから、遊び相手の子にはキスしねーんだって」


「なんで?」


「さあ?俺が知ってたらこえーだろ」


「うーん。確かに」


「つーことは!」


「…つーことは?」


嫌な予感…。