君の虚実に恋してる



わたしは振り返ることも歩き出すことも出来なくて、その場に立ち止まった。

来ないで。


思想とは裏腹に走って近づく音が聞こえた。


「エノキ…大丈夫?」


不意にそんなこと言われるもんだから安心して涙が溜まった。


「かっつから聞いた」


ぼろり、と一粒涙が出るともう止まらず泣き出してしまった。


「うっうぇ…」


やだ。

こんなのダサい。
部長も困る。
泣き止め!泣き止めばか!


「怖かったろ?」


そんな優しくしないで。


より泣けるから。


頭を撫でないで。


期待してしまうから。


「…何か、された?」



キスされた、なんて言えるはずなくて首をぶんぶん振った。


「帰ろう」


わたしの頭を自分に引き寄せて歩き始めた。


なんて惨めな、わたし。



それでも涙が止まらなかった。


悲しいし嬉しいし惨めだし馬鹿だし、いちいちぐちゃぐちゃ。