君の虚実に恋してる



けれどもそこにいたのはかっつ先輩だった。

途端に怒りが消え失せて、立ち聞きしていたことや口調の違う先輩を思い出して怖くなってきた。


「ごめんなさいっ」

「謝るのはやましいことがあったからだよね?」


…墓穴掘った!


「どこから?」

「部長が怒鳴り始めたへんから…」

「…そう」


何を言っていいのかわからなかった。
怒りたいし問い詰めたいけど。

けど。

あんなに冷たい声を出されたらわたしは傷つく。
あの目も、氷のようになるのかな。


かっつ先輩ってこんな顔だっけ?
誰?
恐怖で足がすくんだ。




「エノキ震えてる。寒いの?俺が怖いの?」

首を横に振った。
違う。
かっつ先輩はもっと暖かいもっと優しい目をしてた。


「エノキも俺と北上のこと聞きたいんじゃないの?聞かないの?」

どんどん、目が冷たくなっていく。


違う違う。そんなの、


「せっかくエノキの前で猫かぶっといたのにな。ここまでか」


嘘だ。