その日、私はパソコンで事務作業をする黒沢さんに話しかけた。
「黒沢さんすいません、話があるんですけど…」
「なに?」
黒沢さんは手を止め、私に向き直った。 「はい、豊田さんのことなんですけど…」
話しながら私も隣の椅子に座る。
「ああ、この前物忘れがあったって報告してくれたよね。その後どう?」
「はい、その後どんどん物忘れが増えている様です。」
黒沢さんは少し腕組みして考えてから、「豊田さんて最近引っ越したよね?」
「はい、もう3ヶ月前くらいになりますけど…前住んでた家の近くの団地に」
「前に住んでた家は、若い頃からずっと住んでた家だったね」
黒沢さんは頷きながら、
「それが原因かも」
と言った。
「え?」
「住み慣れた家から違う環境に移って、変化に適応できてないのよ。結果、物忘れが増えてるのかも」
「どうすればいいんですかね…?」
「とにかく一回通院してみるしかないね。私からも話してみるわ」