スーツを着た彼の後ろをとらえる。間違い、あの人だ。私は声をかける。
「…すいません」
ダメだ、いざとなると声が出ない。私は大きく息を吸った。
「あの!すいません!」
思ったより大きな声が出た。前を歩いていたスーツの男性が驚いて振り向く。彼の目が私と合う。
「え? オレ?」
「あ…はい、すいません」
「いや、んでなんですか?」
彼の私を見る目が下に行くのが分かった。
「あっ!!」
今度は彼が大きな声を挙げる。周りの人が数人振り向く。
「あ、ごめんなさい」
彼は謝ると、笑顔になった。
「それ、もしかしてオレの傘?」
私の持っている傘を指差す。私は一度傘を見、答える。
「そ、そうです。この前貸して頂いたヤツで、返そうと思って…もっと早く返そうと思ったんですけど、なかなか会えなくて…」
私はテンパっていた。知らない同年代の男の人と話すのは慣れてない。免疫が無いのは自分でも理解していた。
彼は私の話を聞くと笑顔のまま
「ありがとう」
と呟いた。
「その傘、大切な物だったんだ。わざわざ返してくれてありがとう」
彼がそう言った瞬間、私の顔に一滴の水が当たった。
「雨だ…」
なかなか梅雨明けしない空からは雨が舞い落ちたかと思うと、途端に雨足が強くなる。
「わざわざ返してもらっといて悪いけど、受け取れそうにないな。」
「え?」
彼を見るとまだ笑顔のままだった。
「君、傘持ってないでしょ?それ延滞ってことで貸しておくから、使って」
そういうと彼は手に持っていた鞄を頭上に掲げる。
「え、でも…」
「いいって、オレ家ここから近いから。その代わり、またここで会えるよね?オレ、水曜日の夜だけこの道通るから、暇な時来て。じゃ!」
そう言うと彼は人ごみに消えていった。あの日と同じように。
「…すいません」
ダメだ、いざとなると声が出ない。私は大きく息を吸った。
「あの!すいません!」
思ったより大きな声が出た。前を歩いていたスーツの男性が驚いて振り向く。彼の目が私と合う。
「え? オレ?」
「あ…はい、すいません」
「いや、んでなんですか?」
彼の私を見る目が下に行くのが分かった。
「あっ!!」
今度は彼が大きな声を挙げる。周りの人が数人振り向く。
「あ、ごめんなさい」
彼は謝ると、笑顔になった。
「それ、もしかしてオレの傘?」
私の持っている傘を指差す。私は一度傘を見、答える。
「そ、そうです。この前貸して頂いたヤツで、返そうと思って…もっと早く返そうと思ったんですけど、なかなか会えなくて…」
私はテンパっていた。知らない同年代の男の人と話すのは慣れてない。免疫が無いのは自分でも理解していた。
彼は私の話を聞くと笑顔のまま
「ありがとう」
と呟いた。
「その傘、大切な物だったんだ。わざわざ返してくれてありがとう」
彼がそう言った瞬間、私の顔に一滴の水が当たった。
「雨だ…」
なかなか梅雨明けしない空からは雨が舞い落ちたかと思うと、途端に雨足が強くなる。
「わざわざ返してもらっといて悪いけど、受け取れそうにないな。」
「え?」
彼を見るとまだ笑顔のままだった。
「君、傘持ってないでしょ?それ延滞ってことで貸しておくから、使って」
そういうと彼は手に持っていた鞄を頭上に掲げる。
「え、でも…」
「いいって、オレ家ここから近いから。その代わり、またここで会えるよね?オレ、水曜日の夜だけこの道通るから、暇な時来て。じゃ!」
そう言うと彼は人ごみに消えていった。あの日と同じように。


