私は休みの日だけど、傘を持っていつもの場所に立つことにした。確か達也と別れた夜に借りたから、休みの曜日だったはずだ。休みが曜日で決まってる私は、平日の水曜日が毎週休みで、傘を借りた曜日も水曜日だった。時間も同じくらいでその場所に向かう。
もう初夏でもいい季節なのに今年の梅雨前線はしつこく日本大陸に留まっている。今日も、薄暗い空に厚い雲が張り付き、今にも雨が降り出しそうな空模様だった。私は道行く人を眺めていた。スーツ姿の人に対象を当てて見る。平日のこの道は帰宅ラッシュだけあって、スーツを着た男性は見切れないほど沢山いた。それでも若い人に絞って見ているので、見逃しはほとんどないはずだ。ここ数日でテクニックを身に付けた自分に気付き、苦笑した。
今日、会えなかったら止めよう。ふと思った。さすがに毎日ここに立ってたらいい加減怪しいし、私だって来る宛ても無い人をここで待っていたくない。傘は捨てられないけど、こっちから探すのは最後にしようと思った。
一時間くらい待っただろうか。相変わらず続く人波に私はウンザリしてきた。休日をこんな風に過ごしてる自分に寂しさと情けなさを感じた。帰ろう…そう思った時だった。
「…!!」
人の間から一瞬、彼が見えた気がした。顔をほとんど忘れてたはずなのに、一瞬見た瞬間、彼に違いないと確信した。思うやいなや、私は彼を追った。