雨を含んだ髪に雨粒がぶら下がる。涙と雨でぐちゃぐちゃになった夜の街は、何もかもが滲んでいた。不意に後ろから肩に手を乗せられる。一瞬で私はそれが達也だと思った。追いかけて来たんだ…。やっぱやり直したいって…。
私はゆっくり振り向く。今の惨めな私を見られたくなかったけど、達也が戻ってくれるならそれでも良かった。
「…え?」
予想に反してそこにはスーツを着た知らない男が立っていた。歳は同じぐらいだろうか。傘をさして立っている。
「な、なんですか?」
達也じゃなかったショックからか、私はやや厳しい口調で聞いた。
「…いや、その…」
何故かその男も返答に詰まっていた。自分から呼んできたのに。
私は黙って前を向き、歩き出そうとした。その時、男は今度は声で私を振り返らせた。
「ま、待って! 傘持ってないの?この傘使いなよ。」
そう言うと男は傘を私に差し出してきた。反射的に傘を掴んでしまった私は慌てて
「いいです、何なんですか?」
「いいから!風邪ひいちゃうよ。俺は家がすぐ近くだから!じゃ!」
そう言うと男は雨の中へ飛び出し人混みへ消えていった。何だったんだろう…。私は大きめの黒い傘を見上げると、ため息をつき、家路を歩き出した。