かすかな希望が見えてきた。とあるキーワードによる発作…少ないが確かな記憶…そして豊かな感情。そのどれもが、サヨの心がまだ完全に壊れていない証拠。

柏木先生は、俺の変化に気づき、小さく頷きながら話しだした。

「そう言う事…ゆっくりのペースではあるけど、サヨちゃんの中で変化が起きている。そしてその変化は確実に良い変化に動いている…でも一つ注意しなくちゃいけない事があるわ…」

「なんですかそれは?」

「それは、私たちの手でサヨちゃんの記憶を取り戻さないといけないって事よ…」

………??

そんなの…。

「…当然…ですよ?」

今さら注意されるまでもない。俺の手でサヨは救う…どんな困難でも、どんなに時間がかかる作業でもな。

だが柏木先生は、俺の返事を聞いても、笑顔を浮かべたりはしなかった。難しい表情を崩さず、俺を見据えてままだ…。

柏木先生の真意が読めない…何が気に食わないんだ?。

「ヒサジ君は本当の意味で、理解していないわ…私が言っているのは、結果的にサヨちゃんを治すという意味じゃない。絶対に私たちの手で治すという事…つまりは、サヨちゃん自身が自力で記憶を取りもどす事は絶対に避けなくちゃいけないって事なのよ…」

柏木先生は言う…サヨ自身が記憶を取りもどす訳にはいかないと。

柏木先生は一体、何を危惧しているんだ…?