体育館裏とは、人に見られたくない事をするのには一番適した場所である。そして、今この状況は明らかに『ケンカ』の真っ最中であった。

まだ俺の存在には気付いていないが、このケンカはとてもケンカと呼べる状況ではなかった。

明かに焼きを入れている様な状況である。

複数人が周りを囲み、一人の男が一方的に殴り続けている。殴られている男は、抵抗はしているものの、簡単にいなされ、また殴られている…。

「どうしたタクヤ。俺何か瞬殺に出来るんじゃなかったのか?」

「そんなのただの噂だ…」

「噂ねぇ…確かに、俺はこの耳で聞いたんだけどなぁ。俺なんか口だけだって。それにあれだけガン飛ばしといて、今さら何を言い訳言ってるんだよ…」

どうやら、自分の影口を聞いたあの男が、キレてケンカを仕掛けたみたいだな。

「それは……もう勘弁してくれイサミ。今度からは気をつけるからさ…」

「気をつけるだぁ?…てめぇはどこまでなめ腐ってるんだ?コラァ!」

イサミという男はタクヤなる男の発言に完全にキレてしまった。凄い勢いで殴りかかると、そのまま地面に押し倒し、上から殴りかかる。確かに、気をつけるは言葉を間違えているとは思うが…少しやりすぎだな。

「それぐらいで勘弁してやりな…もういいだろう」

面倒事はごめんだが、このままほっとくのも具合が悪い。俺は、あの男を助ける事にした。

するとイサミと呼ばれていた男は、俺に視線を向けた。明らかに殺気のこもった眼で。

「誰だてめぇ…関係ない奴は引っ込んでろ。死にてぇのか?」

イサミはタクヤと呼ばれている男の襟首をつかみながら、俺をドスのきいた声で脅してくる。