サヨの中で止まっていた時間がついに動き出した。

サヨの病状は想像していたよりかは深刻ではなく、カウンセリングや精神を落ち着ける薬などの服用を続け、家に帰る許可が下りた。

そして…。

「なんか緊張するな……ふぅ」

「無理はするなよサヨ?」

二人は今、学校に通学していた。

サヨにとっては、僅かな時間しか経っていないのだが、実際は約二年の時が経っており、その事実がサヨに何とも言えない緊張をもたらしていた…。

そして隣に居るヒサジはサヨの精神状態を心配しながら、サヨに問いかけている。

「大丈夫だよ…サヨは強くなるから」

「そっか…」

しっかりと前を見据え、サヨは学校に向かって歩いて行く。ヒサジはそんなサヨを見守りながらも、満足げな表情でサヨの隣を歩いていた。

二年前と変わらず、しっかりと手を繋ぎながら…。

夢と現実の狭間で苦しんでいたサヨとヒサジ。まだまだ幼かった二人には、過酷な現実ではあったが、乗り越えた先には有り触れた日常が待っていた。

当たり前と思っていた日々が一瞬で崩れ去り、取り戻す事が出来ないと思っていた日常がこうして戻ってきた。

「勉強しないと…だね」

サヨがヒサジに話しかける。表情の変化に乏しいサヨだが、ヒサジには解る…これは落ち着いている時に見せるサヨの表情。

満面の笑みではなく、落ち付いた笑み。これがサヨの笑顔だ…。

「俺はもうやってるけど、サヨはこれからだな…俺が教えてやろうか?」