一瞬、男の表情が酷く驚いたようになった。
次に、見開かれた両の目に、
痛みとも悲しみともいえない色が浮かんだ。
なんと大袈裟なと内心思いつつも、
カオリは急になんとも後ろめたいような気分に襲われた。
男から滲み出す幼児のような無防備さは、
彼女に嫌悪の情をもよおさせたが、
同時に踵を返して歩み去り難いような気持ちもした。
男の両の目から、今にも涙が零れ落ちそうだと思った。
彼女はうろたえたが、
それを隠すように出入り口に向かうと、
男も黙ってついて来る。
街に煙る雨は、だいぶ小降りになっていた。
軒下で雨宿りをしていた人々の数が減っていた。
すぐ背後に、まだ男がついて来るのがわかった。
「どこまでついて来るつもり?」
振りかえりもせずにカオリが訊いた。
「その先に素敵なカフェバーがあるんだけど」
と男はカオリと肩を並べながらおずおずと言った。
雨が再び少し強くなってきた。
カオリは投げやりに肩をすくめた。
カフェバーは別に素敵でもなんでもなかった。
湿った革とカビの匂いがしていた。
「何を飲む?」
男は気を遣いながら、まだ少しおずおずと訊いた。
自分で誘っておきながら、
カオリがその場にいるのが信じられないといったふうだった。
奇妙な可笑しさと、
あきらめの感情がふつふつと湧き起こるのを感じながら、
カオリが言った。
「そうね、じゃ、フィノ・アモンティリャードを」
次に、見開かれた両の目に、
痛みとも悲しみともいえない色が浮かんだ。
なんと大袈裟なと内心思いつつも、
カオリは急になんとも後ろめたいような気分に襲われた。
男から滲み出す幼児のような無防備さは、
彼女に嫌悪の情をもよおさせたが、
同時に踵を返して歩み去り難いような気持ちもした。
男の両の目から、今にも涙が零れ落ちそうだと思った。
彼女はうろたえたが、
それを隠すように出入り口に向かうと、
男も黙ってついて来る。
街に煙る雨は、だいぶ小降りになっていた。
軒下で雨宿りをしていた人々の数が減っていた。
すぐ背後に、まだ男がついて来るのがわかった。
「どこまでついて来るつもり?」
振りかえりもせずにカオリが訊いた。
「その先に素敵なカフェバーがあるんだけど」
と男はカオリと肩を並べながらおずおずと言った。
雨が再び少し強くなってきた。
カオリは投げやりに肩をすくめた。
カフェバーは別に素敵でもなんでもなかった。
湿った革とカビの匂いがしていた。
「何を飲む?」
男は気を遣いながら、まだ少しおずおずと訊いた。
自分で誘っておきながら、
カオリがその場にいるのが信じられないといったふうだった。
奇妙な可笑しさと、
あきらめの感情がふつふつと湧き起こるのを感じながら、
カオリが言った。
「そうね、じゃ、フィノ・アモンティリャードを」

