向かうは北西。
街の北口から外へ出るつもりでいた。


北口に着くと、トールが馬を引き連れて待っていた。

「おはようございます〜♪
ダンナ〜、待ってましたよぉ。

地図と馬の手配しておいたんで〜、使って下さいねぇ」


有無を言わさず丸めた地図と手綱を押し付ける。

昨日の今日で一体どんな手段で準備したのだろうか。


「…よく、ここから出るって分かったな。

それに、どんな手使って用意したんだ?これ…」


困惑気味にそう言って、艶やかな葦毛の馬を仰ぎ見る。
しなやかな筋肉と立派な体躯、賢そうな顔立ちの駿馬だ。

こんな辺境の地で手に入る代物ではない。


「取り引きルートは企業秘密ですよ〜。

まぁ、アタシの情報網を持ってすれば、これ位…。
まさに朝飯前ってやつですねぇ♪」


ピッと人差し指を立てて得意気に言った。

確かに、今は早朝。
朝食はこれからという家庭が殆どだろう。

よっぽど上手いことを言ったと思っているのか、未だそのポーズのままだ。


ドルメックは思わず笑ってしまった。


「ハハ…まぁ、そうだな。

わざわざすまないな。
代金を払おう。いくらだ?」



荷物から金の入った袋を取り出そうとしたら、トールに止められた。
訳が分からずどういうことかと問い質す。


トールはニィっと笑って答えた。


「お代は全て、ドラゴン討伐から帰って来てから頂きます!

なので、ちゃ〜んと帰って来て下さいねぇ。

お代踏み倒して死んだりしたら承知しませんよぉ!」


これが、トールなりの激励と再会の約束のようだ。


ドラゴンとの戦い。
使えるのは自分の核石のみ。

しかも、実はドルメックは今まで一度も核石の魔力を引き出したことが無いのだ。


(生きて帰れないかもしれない)


そんな思いが心の片隅にあった。

だが、これで何としても帰って来なければならない理由が出来てしまった。



「死ねない理由がまた一つ増えたな。

必ず、代金を払いに帰って来るよ」



苦笑して、トールに右手を差し出した。

ドルメックの手を握り、お待ちしておりますとトールは笑った。