[民の雫]を使えば、その魔力により莫大なエネルギーが発生する。

下手をすれば街一つが消え去るほどのエネルギーだ。

確かに、ドラゴン討伐には有効な戦力となるだろう。


しかし、【宝玉の民】の核石である[民の雫]は、【宝玉の民】にしか扱えない。

どんなに優れた魔力の使い手でも、[民の雫]の魔力は引き出せないのだ。


その為、どれだけ膨大な魔力が籠っていると分かっていても、今まで[民の雫]には魔石としての価値が無かった。


そこに、【宝玉の民】の可能性がある盗賊[D]の存在が浮上してきた。

ドラゴン討伐の為に少しでも戦力を上げたいと思っていたこの時期に、[民の雫]を扱えるかもしれない存在が現れた。

しかも[民の雫]を集めている。



それなら[民の雫]を餌にして、誘き寄せようという魂胆である。




怒りに口も利けない状態のドルメックを気遣いながらも、トールは更に言葉を続ける。

「勿論、[民の雫]を使えばダンナが力の反動を受けることも、
核石の魔力が尽きれば[民の雫]が砕けてしまうことも…

全てわかった上でダンナをお呼びなんです…」


これが、悪い情報の全てですと締め括った。

何の反応も示さないドルメック。


トールは沈黙に堪えきれず、申し訳なさそうに更に付け加えた。


「ここからはアタシの予想なんですが…。

多分、王族の方々は一度に全ての[民の雫]を返さないと思うんですよぉ。

何てったってダンナは盗賊ですからねぇ。

[民の雫]を頂いてそのまま逃げられることを警戒してるはずです…」



「………あぁ、そうだろうな」


暗い声で、ドルメックが答えた。