「そう。キボウタクシー」

「……って、何ですか?」

「おや、知らないですか? まあ、乗ってりゃその内わかりますよ」


運転手さんはくすくすと笑った。

声も高いが、笑い声はさらに高い声だった。

それにしても、こんな意味不明なタクシーに乗っていて大丈夫だろうか。

陽気に見えて実は誘拐犯とか。


ブルッ――。


考えただけで身震いした。

まさか、まさか…ね。


「寒いですか?」

「あ、あの…」

「もうじき冬だからなあ、お嬢さんみたいに華奢だと寒いのも無理もないですね。どれ」


私に話す隙を与えない運転手さんは、何も言っていないのに暖房をつけた。

温かい風が車内にふわっと広がっていく。

寒かったのは本当なので有り難いのだが、それ以上にキボウタクシーというのがなんなのか教えて欲しい。

今までそんな名前は聞いたことがないが。


雨足は私が乗ってからも強くなる一方で、ワイパーが何往復もしながら奮闘している。

運転手さんは相変わらず陽気に語りかけてきた。


「いやあ、本当に凄い雨ですね」


鏡越しに運転手さんと目があった。

運転手さんの目は細長いたれ目で、愛嬌があるように思えた。