キボウタクシー

「運賃はいらないですよ。先ほどのお嬢さんの笑顔だけで充分です」

「え!?」


私は驚いて運転手さんを見るが、運転手さんは本気で言っているようだった。

「これが私の仕事ですから」


軽いウィンクと共に運転手さんの笑顔がはじけた。


「運転手さん…」

「頑張ってくださいね、お嬢さん。またいつか会いましょう。お嬢さんが心から笑顔になれた時に」


運転手さんは最後に自分の前でグッと拳を握って言った。

私も思わず同じようにして、大きく頷いた。


ドアは自動で閉まり、小さなクラクションと共に黄色の…キボウタクシーは走っていった。

私はキボウタクシーが見えなくなるまで立ち尽くしていたけれど、その後一度深呼吸をして彼のいるアパートと向き合った。

このままじゃ終われない。

ちゃんと彼の口からふられた理由を聞かなきゃ、きっといつか後悔してしまう。


「今を全力で…ですよね! 運転手さん!」


私は運転手さんから分けてもらったキボウを胸に、未来への一歩を踏み出した。


-END-