キボウタクシー

「ここ…」

「はい、そうですよ」


運転手さんは何もかもわかっている様子だ。

開いたドアの向こうには、大好きな彼のアパートがあった。

呆然とする私に、後ろから声がかかる。


「到着しました。お嬢さんの人生を"キボウ"の満ちたものにするための場所に――」


私はただアパートを見上げる。

ここに私のキボウがある。

未来の自分が笑顔でいるためのキボウが。


雨はいつの間にか真っ白な雪となって、優雅に舞い降りてきていた。


「おや、将軍様が降りてきたみたいですね。」

「え?」

「きっとあなたを送り出すために、今年は早く降りてきてくれたんですね」

「将軍様が……」

「はい。一見冷たいけれども、実際はいい奴なんですよ」


運転手さんは黒と白とが混ざり合った空を見上げていた。

運転手さんの言う将軍様というのが、どんなものなのか…まだぼんやりとしているけれど少しだけ分かった気がした。


「あ!」


運転手さんと同じように空を見ていた私は、運賃を払うのをすっかり忘れていたのに気づき、思い出したように財布を探し始めた。

しかし、運転手さんは笑顔でそれを止めた。