キボウタクシー

運転手さんはずっと笑顔だった。

その絶えない笑顔の源は、常に全力で物事に当たってきた自分自身なのかもしれない。

この人はきっと、強い人なんだ。


運転手さんがブレーキをかけると、慣性の力で私は前のめりになった。

運転手さんはその私に顔を近づける。

私の目には今、運転手さんの笑顔のみが映っていた。


「だから…」


運転手さんは私の手を優しく握る。

大きくてぬくもりがあって、優しい。


「私はお嬢さんにも後悔しない今を生きて欲しい。決して美しくなんかなくても、いつか自分が満足できる人生であって欲しい」


運転手さんの声は優しいけれど、言葉は力強かった。

気づかぬ内に私にまで笑顔と…勇気が伝染してきている気がした。

私はいつの間にか、運転手さんの在り方が羨ましく思えていた。


「はい。私も、運転手さんのように強く…なりたいです」


私は運転手さんの手を握り返した。

運転手さんは満足そうにうんうんと頷いて、笑顔をさらに輝いたものにしてくれた。


「それじゃあ、お嬢さん…」


運転手さんの声と同時に、自動でドアが開いた。

運転手さんの話に集中していたせいで気づかないままだったが、外の景色は私のよく知るものだった。