「お嬢さん」

「何でしょう?」

「ぶしつけにこんなことを聞くのも失礼だけど、お嬢さん最近何か悪いことがあったでしょう?」

「え?」


運転手さんは笑顔を絶やさなかったが、私は心臓が飛び出る思いだった。

今初めて会ったのにどうして――。


「せっかくかわいい顔なのに、そんな暗い顔してしまっては台無しですよ。人生いいこともあれば悪いこともあるもんですから」


信号が青になったのに気づいていないようだったので指で指して教えてやると、慌てて振り返って車を走らせた。

私は高鳴る心臓を右手で抑えながら、運転手さんの背中を見つめた。


「あの、どうしてわかったんです?」


恐る恐る聞いてみる。

今日初めて運転手さんに邪魔されずに質問ができた気がする。

運転手さんは眉を少し上げて、鼻で小さく笑いながら鏡越しに私と向き合った。

運転手さんのたれ目の笑顔には不思議な安心感があった。


「それが私の仕事ですからね」


運転手さんは一言そう言ったが、理解するにはあまりに短すぎる答えに、私は訝しい顔が表に出てしまった。

運転手さんは私のその表情からそれを読みとったようで、そのまま続けた。


「キボウタクシーってのはお客様を行きたい場所に送るのが仕事じゃないんですよ」