「そ、そうですね。ところであの…」

「うーん、そろそろ将軍様が降りてきそうですね」


キボウタクシーについて聞こうとしたのだが、運転手さんは私に言葉をかぶせてきた。

私は仕方なく言葉を飲み込む。


「将軍様?」

「はい、将軍様ですよ」


運転手さんはおもむろに空を見上げているが、将軍様とは何だろう。

運転手さんの話にいまいちついていけない。


「ほら、もうすぐ冬でしょう。気温もどんどん下がっていって、将軍様を迎える準備が出来てきてるじゃないですか」

「…そうなんですか」

「はい、そうですとも。今年は寒いから、例年より早く将軍様が降りてきそうですね」

「はあ…」


何が言いたいんだろう。

将軍様というのがわからないままに話が進むので、私にとっては話の軸が安定しないままだ。


タクシーは信号で止まっていて、窓の外は見覚えがある景色だが、とても私の家に向かっているようには思えなかった。

運転手さんとの会話も途切れてしまったし。

気まずさから私が顔を俯けようとすると、そのタイミングで運転手さんが私に顔を向けてきた。