『キサラギ』にもだいぶ慣れ、自分の周りが少しずつ、上手く行き始めていると感じていた時だった。

「離せ!離せってばっ!」

朝から騒がしい。
いつにない光景に俺も何事があったんだと目を見張る。
見知らぬ少年が一人、二人の男性に取り押さえられ抵抗している。
周りには野次馬と思しき数人の人だかり。その中にディラの姿があった。

「よう!ニール。久しぶりだな」

「何かあったのか?」

「ああ、フロンティアへの入隊拒否者だ。最近はめっきり見なくなったと思ったんだがなぁ」

俺は初めてだった。
噂ではすごいことになると聞いていたくらいで、実際のとこは知らない。

「あいつ、どうなるんだ?」

「──極刑。つまり『死刑』だ」

そんなに厳しい法則だったのかと今になって思い知らされる。

「……死刑」

まさかそこまでとは──。残酷すぎると同情さえしてしまう。


「ここではフロンティアが家族や恋人より一番に重視されるからな。拒否することは即ち『死』を意味するんだよ」

「なぁ、ディラ。人の『命』ってそんなに簡単なものなのか?」

「これからお前はいろんな場面に遭遇するだろう。ただし、これだけは覚えておけ。戦場に『同情』はいらない。いるのは己の強い信念だけだ」

いろんな修羅場を経験したディラの言葉に、いつも以上に重みを感じていた。